嘘です、世相は切りません。
最近読んだ資料についていろいろ考えてしまったので整理のためにここにまとめておこうと思う。
ダイナミックプライシングについて
以前 Peach 航空でオンライン予約したとき、最後のクレジット決済で楽天カードの不正検知システムになぜかひっかかり1、チケット予約が失敗し、再度購入手続きをしようとしたら +3000 円になってた。1 日経って見に行ったらもとの値段に戻ってたのでそこで買った。かなり悪質だと思う。
そんな最悪な経験があるのだが、ダイナミックプライシングは導入方法や商品によっては良いこともあると思っている。たとえば入荷から時間が経つにつれ価格が漸次低下するようにすればフードロス削減に繋げられる、とか、「トイレットペーパー原料が無くなりそう」という情報(デマ)を聞いて、半信半疑ではあるが心配だから一応買っておくか〜みたいな行動を取る人を減らすなど。でも消費者が企業のカモにされて終わらないようにするには適切な規制が必要だと思う。たとえば
- 期間ごとの上限価格を設ける
- 価格決定のアルゴリズムなどのロジックを開示する
- 断続的な価格の変化は事前告知を要する
など。現実はもっと複雑なルール体系になると思う。
ダイナミックプライシングに限った話ではないが、オンラインでの販売では同じ商品について個人ごとに異なる価格で販売するということが簡単にできる(法的に ok かはよくわからない2)。たとえばサイトを外国語で閲覧している人に対しては日本語で閲覧している人よりも高い価格で販売するということをやろうと思えばできる。こうした不公平を予防する意味でもアルゴリズムの透明性は非常に重要だと思う。
サービスのアルゴリズムの透明性に関する議論は EU の Digital Services Act で活発に議論されているし、国内では食べログのアルゴリズム開示が記憶に新しい。
ロボット税について
ロボット税が議論され始めている、というのを国立国会図書館の調査及び立法考査局が作成した資料を読んで知った。複雑なたくさんの事柄がとてもうまくまとめられた良い資料だった。
資料そのものには全く不満はないのだが、「議論」とされているものの議題と論点が多岐にわたっており、果たしてロボット税は人々が「議論」できるような段階にあるのか?と思った。
例えば下記のようにロボット税に関係なく既存の税制が抱える複雑性に起因する課題がたくさんある。
「② ロボットを所有する事業者」に納税義務を課した場合における税の最終的な帰着先の議論は、法人税の負担が株主と従業員のいずれに帰着するかという議論に類似している。法人所得課税の負担が誰に帰着するかは、非常に議論の多いテーマである。法人所得課税に伴う税負担の一部は、株主以外のステークホルダー(従業員、債権者、顧客等)に帰着している可能性がある。
また、議論の対象であるロボットの定義が難しい、という根幹を揺るがすような課題があると言っている。
課税対象とする AI やロボットを定義することは極めて困難であるとの指摘もしばしばなされる
そこが曖昧だと人々の足並みが揃わず議論できないのではないか。
ロボット税を議論する目的として要旨の 2 番にはこう書かれている。
自動化の進展によって、雇用の喪失、経済格差の拡大、税収の深刻な減少が懸念される中、分配上・財政上の問題を緩和するための方策として、AI やロボットへの課税(ロボット税)に関する研究が増えつつある。
ロボットに代替されることで仕事を失う人がいたとして、その一方では人間をロボットに代替させることで利益を得ている人が存在しているはずなのだ。自動化の進展によって、雇用の喪失、経済格差の拡大、税収の深刻な減少が懸念されるのは、自らの地位や権限を利用して他人から搾取することが、現状の社会制度上許されてしまっているからではないのか。論点がずれていると指摘されそうなことは百も承知だが、論点をずらしてまで議論する価値があると僕は思っている。対してロボット税は小手先の対症療法のような政策に見えて仕方がないのだ。
マルクス主義の枠組みでは労働者は資本家に搾取されているという構図が存在し、現在も株式会社では最高意思決定機関が株主を構成員とする株主総会であるためそれが当てはまる。しかしその構図に限定せず「上位階級による(権威に基づいた)意思決定」という枠組みで考えると、株式会社に限らず公職を含むほとんどの職場で「上司」が「部下」を評価して給与や昇進や移動を決定するし、「部長」が「部」の意思決定について大きな権限を持っている。
「自らの地位や権限を利用した他人からの搾取」を最小限に抑えるためには、(合理的な範囲で)徹底的な民主主義による意思決定を行う職場/企業を増やすのが良いんじゃないかと勝手に思っている。本当はどうかわからない。もしかしたら何かしらの理由ですべてが崩壊するかもしれない。でもやってみないとわからなくない?
職場における民主主義については以前 Richard D. Wolff の "Democracy at Work: A Cure for Capitalism" の感想を軽く書いたが、以降 Worker cooperative への個人的な関心が増している。考え方としてはとても合理的だし歴史もあるしもっと広く受け入れられてても良さそうなものなのだが3、どうしてあまり広まっていないのだろう。
このエントリーを書くきっかけとなった資料
ダイナミックプライシング
- The Wendy’s controversy shows Uber-style pricing is coming for everything - Vox
- オフピーク定期券「値下げ」の迷走、なぜ売れない? どうしたら売れる?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」 - ITmedia ビジネスオンライン2
- あと最近電力会社を、一般社団法人日本卸電力取引所の 30 分毎のスポット市場価格によって電気料金が変動する Looop でんきに変更したので
ロボット税
- 楽天カードの不正検知システムも当時ものすごく不親切で、ユーザーへの通知はなくただ決済が失敗するというもので最悪だった。そしてロック解除は利用可能時間が設定されてるチャットまたは電話のみから可能で、問い合わせチャットまたは電話への導線もあえてたどり着けないようになっていたり、最悪だった。後に、決済に失敗した後にメールに通知が来るようになり、送信されたリンクから「心当たりある」をクリックすることでロック解除できるようになったので改善はされていたが、飛行機と新幹線のチケット、GitHub の決済は必ず一度決済に失敗するので不便だった。今は違うカード使っているのでどうなっているかわからない。↩
- 消費者のセグメントごとに価格を変えることは Price discrimination と呼ばれている。これが社会課題と捉えられている例としてピンク税(女性に対して製品やサービスを男性よりも高い値段で売ること)がある。ちなみに Wikipedia 曰く鉄道のピーク/オフピークで異なる運賃を設定することは Price discrimination にはあたらず、 Congestion pricing に分類されるらしい(理由は「ピーク/オフピークは別商品として考えられるから」ということで超曖昧だし出典もないので怪しいが)。↩
- 日本では労働者協同組合法が 2022 年 10 月に施行されている。Workers cooperative の日本語訳は「労働者協同組合」だが、法律で定義された「労働者協同組合」ができたため、狭義の労働者協同組合(法律で定義されたもの)と広義の労働者協同組合(もっと広い Workers cooperative を指すもの)がある。↩