Steven Pinker さんの The Better Angels of Our Nature を読んだ。邦題は「暴力の人類史」。
圧巻だった。人類は暴力的でなくなってきている、ということを歴史学、社会学、倫理学、心理学、経済学など様々な分野の研究を引用しながら論じている。作者は心理学の研究者なので仕事で近いことをしているのかもしれないが、この量の情報を調査してまとめ上げたのには脱帽する。
事例として挙げている心理学の実験にはサンプル数が少ないものがあったり、疑義が持たれているスタンフォード監獄実験をフィーチャーしてたり、進化心理学の理論とかは一部ん〜という感じだったけど、それ以上にとにかく情報量が多くて嬉しくなってしまった。 The True Believer の前に読んでいたら相当影響を受けてたと思う。The True Believer を読んでから OpenStax の心理学と社会学の教科書を読んだけど、この本はそれらをお得なバンドルで提供してくれている。
あと、統計学をある程度知ってて良かったなと思った。各研究の紹介では結果だけでなく手法まで紹介されていて、この本から得られる情報量が間違いなく増えた。ポアソン分布について勉強するきっかけにもなった。
2020年にピンカーがキャンセルされかけた際、ピンカーが systemic racism の存在を否定しているという批判があったが、本の中ではむしろ systemic racism の存在を肯定している部分があった。
But another reason for their statelessness is that lower-status people and the legal system often live in a condition of mutual hostility. Black and Cooney report that in dealing with low-income African Americans, police "seem to vacillate between indifference and hostility,... reluctant to become involved in their affairs but heavy handed when they do so." Judges and prosecutors too "tend to be . . . uninterested in the disputes of low-status people, typically disposing of them quickly and, to the parties involved, with an unsatisfactory penal emphasis."(Kindle版 2154/21876)
The current black-white difference in homicide rates within the United States is stark. Between 1976 and 2005 the average homicide rate for white Americans was 4.8, while the average rate for black Americans was 36.9. It's not just that blacks get arrested and convicted more often, which would suggest that the race gap might be an artifact of racial profiling. The same gap appears in anonymous surveys in which victims identify the race of their attackers, and in surveys in which people of both races recount their own history of violent offenses.(Kindle版 2317/21876)
(2つ目の引用については、racial profiling が数値に現れるほど深刻なものではないと主張しているともとれるが。)
でも発端となったツイートを読むと「人種差別よりも銃の問題を解決しよう!」という感じで人種差別から話をそらされている感じはあるし反感を買うのは当然な気がする。意図的にそのような表現にしたのか、短い文章を書くのが下手なのかはわからないが。というかこの本も「今が苦しい俺はどうすれば...」に対する有用な答えは一切なく、個々人に寄り添ってくれとピンカーに期待するのは分が悪いのかもしれない。
ちなみに今回は Audible メインで、たまに Audible を聞きながら Kindle の書籍版を目で追うというのをやりつつ、一部書籍オンリーで読み直す、ということをやったけど最高だった。