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読み物の感想をまとめて 2025

ノンフィクション本を読んだら感想を書くというルールを自分に課していたが最近は感性も鈍ってきてこれといった感想も出てこずサボってしまっていたので、去年から今年にかけて読んだノンフィクション本のうち感想を書いてなかったものを簡単に記録していく。

1 つ、とても面白くて、いろいろ考えてしまうところが多かった本があったので後日別記事で書く。

宮崎伸治(2020)、「出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記」

翻訳業をやってた方の回顧録。翻訳を依頼されて、原稿を提出して数ヶ月経ってから編集者から「出版の話は頓挫しました。翻訳依頼は正式なものではなかったのでお金払えません。」と連絡が来た、みたいな話が何個も出てきて著者の方が気の毒だった。出版業界ひどいな&契約書は大事だな、と思った。

今(というか出版された時点)は翻訳業から離れて警備員をやっているらしい。専門的なスキルがあるにも関わらずそれを活かせてかつ楽しめる職(場)がない現実ってあるよなあと自分の大学院時代を思い出しながら思った。

過去に何冊かベストセラーを出し、ほうぼうの出版社から執筆・翻訳依頼が次々と舞い込んでいたころ、まさか自分が警備員になるなんて思ってもいなかったし、「若いころに手に職をつけておかなければ、年取ったら警備員になるしかなくなるぞ」などと警備員を揶揄する友人もいた。それが今、私自身が警備員となっているのだから皮肉なものだ。

でも正直に言う。私は警備員であることを恥じてはいない。警備員も世に必要とされている仕事であることに変わりはなく、誠実に任務を果たせばそれなりにやりがいはある。また私がこういう境遇になったのは文筆家・翻訳家という生き延びるのが困難な職業を選んだことが一つの原因だが、その道を選んだのはほかでもない自分なのだからそれを後悔するわけはない。

(Kindle 版 p.206/214)

Albert Camus (1942 / 1955), "The Myth of Sisyphus: And Other Essays"

キーワード 3 つで言うと「不条理、自殺、実存」という感じの本。まあまあ面白かったけど難しくてよくわからなかったのもあり全然記憶に残らなかった。

シーシュポスの境遇について下記のように書いていて、なるほどそうかもなあと思った。

If this myth is tragic, that is because its hero is conscious. Where would his torture be, indeed, if at every step the hope of succeeding upheld him? The workman of today works every day in his life at the same tasks, and this fate is no less absurd. But it is tragic only at the rare moments when it becomes conscious.

(Kindle 版 p.120/213)

Mark Fisher (2009), "Capitalist Realism: Is There No Alternative?"

資本主義が現代社会を蝕んでいる、という感じの内容。難しくてよくわからなかった。

(この本に限らず)資本主義批判の文章を読む度に「資本主義」に多くの意味を持たせすぎ!と思う。「消費主義」とか「能力主義」とかに分解して語ってほしい。あと「資本主義」を選択した結果悪い世の中になったのではなく、人間がいろんな変な選択を繰り返してきた結果「資本主義」に至ってしまったのではないか?と個人的には思う。

最後の方で、我々に何ができるのかについて下記のように書いていた。

For example, the left should argue that it can deliver what neoliberalism signally failed to do: a massive reduction of bureaucracy. What is needed is a new struggle over work and who controls it; an assertion of worker autonomy (as opposed to control by management) together with a rejection of certain kinds of labor (such as the excessive auditing which has become so central feature of work in post-Fordism). This is a struggle that can be won - but only if a new political subject coalesces; it is an open question as to whether the old structures (such as the trade unions) will be capable of nurturing that subjectivity, or whether it will entail the formation of wholly new political organizations. New forms of industrial action need to be instituted against managerialism.

(Kindle 版 p.79/82)

やっぱり Worker cooperative こそが未来なのでは!?(n 回目)

水野祐(2017)、「法のデザイン—創造性とイノベーションは法によって加速する」

インターネットが普及して新しいカルチャーが生まれる中、どういう法律の作り方が良いのだろうか、というのを事例とともに考察する本。特異で先進的な事例がたくさん出てきて面白かった。

学び 1

例えば、法律の規定 に「別段の意思表示がないときは」や「別段の定めがあるときは」といった除外文言があれば、任意規定であることは明確である。他方、「~することができない」等と禁止文言が入っている規定は、通例として強行規定に入ると言われている。しかし、たしかに文言の書き方は大きな根拠の一つにはなるが、過去の裁判例においては、必ずしもそのように判断されているわけではない。

(Kindle 版 p.50/346)

学び 2

裁判所の考え方を前提にすると、純粋なアイデアに還元できるシンプルなゲームや、瑣末な部分にしか映像が使用されていないゲームを除き、家庭用ゲームやコンピューターゲームの多くは、映像をその主要な構成要素としているので、「映画の著作物」に関する著作権法の規定や考え方がそのまま当てはまると考えられている

(Kindle 版 p.187/346)

吉川祐介(2025)、バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮

バブル期に大量に建てられたリゾートマンションが今どんな形で負債となってるか、という内容の本。リゾートマンションの一室をある会社が買って、それをさらに分割して何十人の共有持分にして、けどリゾートマンションは廃墟と化し、所有者たちは売るに売れず今でも固定資産税を払い続けてる事例(たしかこんな感じだったと思う)、みたいなのが次々紹介されていて面白かった。何事においても計画性は大事。前も書いたけどやっぱ吉川さんすごい。