小林エリコさんの「この地獄を生きるのだ——うつ病、生活保護。死ねなかった私が『再生』するまで。」を読んだ。
本当は去年読み終えていて「読み物の感想をまとめて 2025」で「いろいろ考えてしまうところが多かった本」と言ってたやつ。
就職 -> 自殺未遂 -> 生活保護 + デイケア -> 自殺未遂×2 -> ボランティア -> 再就職 という体験を綴った本。重いテーマだが文章と構成が上手で非常に読みやすかった。意図していたかどうかはわからないが、自殺を決意するまでの思考過程や心境についてはあまり深入りせずに、でも読者に理解できる程度に書かれていて悲壮感なく読めた。
以下、読みながら思ったことなど。
生きて語る
幸い、作者は苦悩のどん底から抜け出せており(あるいは僕にはそのように見えている)、自身の体験を文章や漫画で人々に伝えることができている。
ただ、現実としてすべての人がそうではなく、苦悩から抜け出せずにいる人が大勢いることを認識しておきたいという気持ちがある。作者は、漫画と文章を書き続ける根気と熱意と技量を持っていて、それが生活の改善に寄与したと思う。一方で誰にも声を拾われず、自ら表現することがない人々については僕らは今後も知ることはない。
病院の閉鎖性
デイケアを併設している精神科クリニックについてこう書かれていた
クリニックにはMRと呼ばれる人たちが頻繁に訪れる。 MRとは製薬会社の営業担当者のことである。「うちの薬を使いませんか」とセールスをしにやってきているのだ。 その中で、クリニックといやに仲のいい会社があり、その会社が新薬として売り出していたのが、統合失調症の薬だった。私はこれまでずっとうつ病だと診断されていたが、その会社のMRが病院に出入りするようになってからは統合失調症と診断された。私には幻聴や妄想などの類はない。納得できない気持ちもありつつ、医者が言うのならそうなのだろうと無理やり自分の病名を信じ込んだ。そして、私は統合失調症の薬を処方されるようになる。
(Kindle 版 p54/183)
いつしかデイケア内には統合失調症と診断された人が増えていた。以前から仲の良かった人も、彼は摂食障害だったが、統合失調症になって例のデポ剤に切り替わった。
(Kindle 版 p57/183)
定期的に医療施設の胡散臭い話がニュースになるので自分が病気した時にハズレを引く怖さみたいなのを考えてしまう。
思い出したもの。
- 精神科病院における身体的拘束 - digidepo_13733664_po_088211.pdf
- 法改正後にも多発する“精神病院”での「虐待」事件… 背景にある「患者の人権は制限できて当たり前」の風土とは | 弁護士JPニュース
- 急増する「在宅利用」 障害者の就労支援に異変 その実態とは? | NHKニュース
- 【独自】訪問看護、1月全国調査へ 厚労省、不正請求問題で|47NEWS(よんななニュース)
- 脳外科医 竹田くん
働くことの意義
私はこの状況を「最低」だと感じる。どこにも所属せず、 何の役割も持たず、果たすべき役目もない人生。空っぽで虚無だ。仕事というものは、どこかで誰かの役に立っている。その対価としてはじめてお金がもらえるはずなのに、 私は何もしていないのにお金を得ている。一体何のために私は存在しているのか。
(Kindle 版 p36/183)
ひさしぶりに与えられた仕事。私は「自分が必要とされている」と改めて感じられた。
(Kindle 版 p74/183)
人はただ漠然と生きることを苦痛に感じる。仕事があることで人は孤立しないで済む。職場に行けばいつもの仕事仲間がいて、挨拶をする。ただそれだけだけれど、今日も元気に生きているということを皆に伝えることができる。
(Kindle 版 p101/183)
仕事とはこの社会全体を人々がうまく回していくことだと思う。自分がホチキス留めした資料もこの社会を回すための役に立っているのだ。その証拠に、対価としてお金が発生する。自分がこの社会で必要とされているという実感は、私に自尊心を取り戻した。
(Kindle 版 p103/183)
働くことで自身の存在意義を実感できる、という趣旨の文章が何度か出てきた。個人的にわりと共感する。鬱病の文脈で self-esteem (自尊心)が良く出てくるが、これを上げるための条件がいくつかあって、仕事はそれらを良い感じにパッケージにしている感じはある。ただ仕事や職場によっては逆効果となることは大いにある気がする。